結婚 二人で楽しむ趣味
演劇

演劇

お芝居を夫婦で見るというのも楽
しいこと。
地方都市では、テレビなどの劇場中継でが
まんしていただくことになりますが、東京に
お住まいの方なら、これはなかなかしゃれた
夫婦の共通の趣味になるものです。
」しかし、演劇といっても、間口も奥行もた
いへん広いもの。まず、こんなところから見
おざきひろし
てゆけばという知識を、演劇評論家の尾崎宏
つぐ
次氏にいろいろ伺ってみました。
まず、いっ見に行くかということですが、
一月の仕事が終わって、食事をし、もし時間
があまったら、洋服を着替えて、出かけてゆ
ぐ、というのがいちばん望「ましいやり方。
このためには、七時ごろから開演になれば
よいのですが、音楽会や映画ではそれがあっ
ても、演劇では四時半から五時半ごろに始ま

るのが現状。これでは会社をサボって行け、
ということにもなりかねますまい。
こういう場合、もし歌舞伎を見るのなら、
三階席へ行って一幕見を楽しむということを
おすすめしたいのです。
一幕よい芝居を見て、その後、夫婦そろっ
て夜の銀座をそぞろ歩きするのも、またしや
れた楽しみ方になるのではないでしょうか。
夫婦の共通の趣味として、演劇透楽しむの
は、たいへんよいことなのですが、自分の生
活を犠牲にしてまで見に行くべきではないの
です。
そこで、次に何を見たらよいか、というこ
とですが、ひとくちに演劇といっても、その
中にはいろいろな分野があります。おもなも
のについてそれを影話ししましょう。
歌舞伎出し物としては、古典の有名なもの
から見てゆくのがよく、新作ものは声価がき
まってからのほうがよいでしょう。
いちかわじゆかい
役者としては、市川寿海の舞台をぜひ見て
おきたいもの。この人は声がよく、この人の
舞台を見ると、歌舞伎のもっている様式の美
しさの中で、声のもっている重要な役割が自
然にわかってきます。
しよさ
また、歌舞伎では、所作ものー踊りがよ
ぼんどうみつごろういちかわえんのすけなかむらかんざぶろう
くさ坂東三津五郎、市川猿之助、中村勘三郎、
おのえしようろくなかむらうたえもん
尾上松緑、中村歌右衛門などの名優が楽しま
せてくれましょう。
 やま
新派これは女形を中心とした芝居で、おそ
はなやぎしよう
らく最後の名女形となるかも知れない花柳章
たろう
太郎の舞台はぜひ見ておきたいものです。も
たちやく
っと芝居好きの人なら、章太郎が立役(男役)
みずたにやえこ
をやり、水谷八重子が女役をやるときが楽し
めます。この八重子という人は、一世紀に一
人ともいえるすぐれた女優です。
はなぶさたろうせとえい
女形としては、ほかにも英太郎、瀬戸英
いち
一など、すぐれた人ぶいます。
いずみきようか
出し物としては、泉鏡花の作品をぜひ見
ておきたいのです。
こういう芝居では、よく「芸を見る」という
ことを言いますぶ、あんまりそうしたことに
こだわらず、気にしないで見ることをおすす
めします。
 たて
新国劇出し物に殺陣ものが多いのですが、
これはこの劇団の歴史みたいなものといえま
しょうか。三十五年の背景をもっているわけ
です。

東宝ミュージカル榎本健一、有島一郎、森
しげひさやはつばしみきへい
繁久弥、八波むと志、三木のり平などという
人々がナンセンスものをやって、お客を大い
に集めているのです。
こうしたナンセンスものは、たとえばイギ
リスで一九世紀に、オペラとかオペレッタな
どをこわすミュージカルアクショツとして
出発したことがありますが、日本ではどうし
て発生したかわかりません。しかし、ζの存
在ば何かの意味があるはずで、決して無意味
ではないと思います。
もっとも、それとナンセンスの質のよしあ
しとは違うわけですが。これは即興のおもし
ろさをねらったものといえましょうか。
しぶやてんがい
松竹新喜劇これは渋谷天外を中心としたも
ので、この天外の芝居はぜひ見ておきたいも
のの一つです。
大阪が本拠で、東京にも年に一回やってき
ます。
東宝芸術座新派とミュージカルと新劇の中
間みたいなものといえましょうか。
割合に小さい劇場なので、いろいろと実験
的な試みもできる強みをもっています。
新劇むずかしいとか、薬くさいとか、昔は
いわれたものでしたが、今はそういうことは
なくなっています。もっとも、まずい俳優の
芝居を見れば、今でもそういう印象を受ける
かも知れませんが。
三〇年も昔に、築地小劇場で育てられた人
人が、いまベテランとして活躍しているわけ
せんだこれやたきざわおさむやまもとやすえひがしやまちえ
で、千田是也、滝沢修、山本安英、東山千栄
こすぎむらはるこたむらあきこ
子、杉村春子、田村秋子などといった人々な
ら、見ていて頭の痛くなるようなことはない
のです。
また、女優で五十才を過ぎた人の舞台は、
新劇の歴史がまだ新しいわけですから、その
女性の先駆者の舞台を見られるという意味か
らも貴重だと思われます。
新劇も、「桜の園」とか「セールスマンの死」
などといった声価の定まった名作ものと、ベ
テランの舞台を見れば、決して頭が痛くなっ
たりすることはなく、じゅうぶん楽しめるお
もしろいものだといえるのです。
寄席もし近くに寄席があったら、これもぜ
ひおすすめしたいものの一つ。
かつらぶんらくやなぎやこごこんていししようかつらみ
桂文楽、柳家小さん、古今亭志ん生、桂三
きすけ
木助などといった人々の落語の話術のすばら
しさは、ぜひ聞いてほしいと思うのです。
こうしていろいろお話ししてきたわけです
ぶ、なんといって竜若い人々に人気があるの
は新劇でしょうか。
近代劇では、終りの幕がおりたときから、
私たちの現実の問題が始まってくることにな
っています。「人形の家」では、ノラが家出し
て幕がおりるのですが、そのあとどうなるか
というのが、見終わった私たちの問題として
残されているわけです。
芝居を見終わっての帰りみち、この私たち
に残された問題1いま見てきた芝居のデー
マになるわけですがーについて、二人であ
れこれ話し合ってみる。こんなところから、
夫婦に共通した話題がはずみ、共通の趣味が
生まれ、共通の場ができてくるのではないで
しょうか。